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雑記

e-Learning Africa 2017 in Mauritius

09/30, 230日目

Joburgを出発し、Mauritiusに到着したのが9月24日。2日間の僅かな自由時間では、タクシーではなくバスと徒歩を駆使して島内観光をした。体感、99パーセント以上の観光客が車で移動している中で、道端を謎のアジア人が闊歩しているという光景は、相当に奇妙なものだったと思うが、後半はそんな人の目にも慣れきってしまった。

Port Loiusと呼ばれるこの国の首都にはAapravasi Ghatという世界遺産がある。19世紀にインド洋を渡ってきた奴隷・移民が最初に到着する港で、現在は港の姿を遺すと同時に、博物館としての機能を果たしている。モーリシャスの歴史を語る上で、奴隷と移民の視点を欠かすことはできない。大航海時代を皮切りにアフリカの植民地化がオランダ・イギリス・フランスを中心に行われ、開発のために多くの奴隷がインド・中国・東南アジアから渡ってきた。今日、南アフリカ共和国や他のアフリカ諸国においても、港町は国際色豊かな大都市となっていることが多い。南アフリカ共和国を例にとれば、ケープタウンはオランダやイギリス由来の白人層が多いのに対し、東の港町ダーバンではインド系の人々を多く目にすることができる。

モーリシャスは現在の人口の7割以上が奴隷として連れてこられた人々の子孫だと言われており、その多くはインド系の人々である。そのため、町の中心部はどこかインドに近い雰囲気を漂わせている。島は自然豊かで、北部のビーチで有名なエリアから、南部の貴重な森林地帯と、その多様性に驚かされる。動植物は人間がこの島に到着するより遥か昔に海を渡ってきたとされ、独自の生態系を築いている。大型の肉食動物は海を渡ることが出来ず繁栄してこなかったため、動物を含めて、島全体がのんびりとした空気だ。

今回この国に来たのは、残念ながら観光目的ではなかった。しかし、少ない時間でも島での暮らしを垣間見ることが出来たのは、とても興味深い経験だったと思う。今回の目的はe-Learning Africa、年に一度の大会議に参加するためである。アフリカ中の教育関係者が政府、大学、民間企業・団体を問わず一堂に会し、今後のe-Learningの利用について話し合う。自分は去年、エジプトの会議にも参加し、そこでは今日にも繋がる多くの出会いがあった。今年の開催国がモーリシャスだと聞いたときは驚きと、遥かな島国というイメージにどこか笑ってしまった部分もあったが、実際に訪れてこの国に対するイメージは大きく変わった。事実、小さな島国であるにもかかわらず、1人当たりの名目GDPでいえばアフリカ諸国のベスト5には入る成長国だ。国のインフラはかなりの高水準で整っており、治安の面もアフリカ諸国の中では例外的に安心して滞在することができる。

今年の会議のテーマは「Learning in Context」というものだった。
ここにおけるContextには様々な意味が含まれると解して構わない。文化的背景や、政治的背景、インフラそのものであったり、周辺国との地政学的観点も含まれる。詰まるところ、「どういった文脈・背景で私たちは学び、またどういった文脈・背景で学んでいかなければいけないのか」と自分は解釈した。

去年の会議のテーマは「Inclusivity」であり、アフリカ諸国が一つのアフリカとして協力していく姿勢を謳ったものだった。そして、その協力のために何が必要か?という流れからの今年のテーマとも言える。Contextの理解なくして有効な手段と協力を講じていくことは出来ない。

残り2週間を切った今回の留学において、今回の会議はまさに集大成として位置づけられるものだった。何より、そもそも南アフリカとの繋がりが現実化したのは去年の会議に参加したことが始まりだ。また、他の国との繋がりもこの会議を通して多く得ることが出来た。今回の会議でも、それは実感したところである。

単純に、成長という観点で言えば英語力は紛れもなく向上の実感があるものだった。去年は様々なアクセント・イントネーション・スピードで話される多様な英語にとても対応できず、自分の意見もほぼ発することが出来なかった。今年は、そもそも英語に対する不自由を意識する場面が殆ど無かったように感じる。もちろん、まだまだこれからも勉強は続けたいし、一切満足はしていない。ただ実感として、日本人でもやればできる、と今は自信を持って言える。英才教育の類を受けたりせずとも、帰国子女でなくても、頭が特段良くなくても、コミュニケーションは取れるようになる。普通に考えれば当たり前で、言語に関して人間に不可能は無いのだろう。どれだけ腹を決めて取り組むか、それだけだと思う。

700人以上が参加した今回の会議では、中国の存在感が大きかった。全体で言えば中国人も1パーセントに満たないが、スポンサーを行ったり、研究成果の応用例を総会で紹介するなど、そのアピールの勢いには舌を巻いた。残念ながら去年も今年も日本人は自分一人かせいぜいもう一人くらいで、基礎教育が世界から見れば優れているとされる日本も、そもそも存在を忘れられているというのが現実である。

もちろん、国の威容を誇るためにアフリカに投資するのが目的ではない。持つもの・優れているものを活用するために、この地球の一国として、というのが一つの姿勢だと思うし、自分もその視点は忘れたくない。実際、素晴らしいアイデアと行動力でアフリカで活躍する日本人もいるだけに、この最大の機会を現状活用できていないことにもどかしさを感じる。

去年の会議では単に圧倒された、という印象が強く残っていた。今年の会議では、考える余裕ができたからか、ようやく会議の一員として貢献できたと感じる。会議での経験を全てを列挙すると途方も無くなるので、特に印象に残っている要点を以下に示す。

・技術の水平性(先進国の先端技術が時を同じくして途上国に簡単に普及すること)のおかげで、紛争というイメージの強いアフリカ諸国、あえて区別せずに地域で言えば、例えばコンゴやスーダンにおいても、それらを活用したアイデアやビジネスが着々と誕生している。そして、それらは現地の人々が主体となっている。

・技術のオーナーシップ、主体性を考えた時に、アフリカ内では「自分たちの生み出すテクノロジー」が必要という主張がある。シリコンバレーをはじめ、欧米先進国からの輸入ではなく、自分たちが自分たちのニーズに基づいて生み出すテクノロジーを今後増やしていかなければいけないという意見である。そのためにも教育は不可欠だが...
会議の最後のディベートでは、「アフリカに第二、第三のシリコンバレーを作るという動きは適切か?」という題で争われた。

・今日のe-Learningにおいて最も大きな障害となるのはハードウェア、そして社会のシステムである。ハードウェアのコストはもちろん、通信インフラといったそもそもの前提が成り立たなければ教育のデジタル化は推進できない。逆に言えば、ソフトウェアの知見は想像以上に蓄積され始めている。社会のシステムで言えば、国の教育方針や国家予算の教育に対する分配など、国を越えての関与が難しい領域を指す。

Contextをテーマにした回なだけあって、背景の理解を多くの場面で要求された。そして、自分の先入観や固定観念に気付くたびに反省の気持ちがあった。めまぐるしく変化していく今日の世界だからこそ、単なるイメージに少しでも長く捉われるのは危険である。

また、来年から通信業界で働く予定の自分にとっては、まさに今後アプローチしたい領域だとも感じた。通信インフラは全てのIT産業の基盤である。日本企業は今後ますます海外展開への動きを強める必要に迫られるとは思うが、それは単にマーケットの縮小だけを理由にはしたくない。戦後復興からこれまで培ってきた日本の信頼や技術を、自分たちが受け継ぐ世代だからこそ、それらの価値を活用するために海外を視野に入れるのだ。単純な水準で言えば、そうした日本の価値は世界的に見れば最上位に分類される。後は、それを伝える手段を獲得するだけだ。

今回、国際会議という場で日本人が他にいなかったためにこうした、国家への帰属意識のようなものを強く持ってしまったが、先述のように国の威容が目的ではない。それはあくまで結果であるし、今日のMade in Japanも「良いもの、必要とされるもの」を追求した結果得られた信頼である。教育は一分野にしか過ぎず、日本人が活躍できる領域は数えきれないほどあるはずだ。

総括して、留学の終わりに相応しい会議ではあったが、単に自分の中では始まりに過ぎないということを実感している。これからケープタウンに戻り、あっという間に日本への帰国となるが、残りの日々も得られるものを貪欲に追い求めていきたい。