Weblog


雑記

英雄の死と更迭

03/31, 47日目

3月28日、Mandelaと共にアパルトヘイトと戦い、建国に身を尽くしたAhmed Kathradaが亡くなった。87歳という南アフリカ共和国においては非常に高齢な方であり、国民からもKathyの愛称で非常に親しまれていた。Mandela, Sisulu, Mbekiといったその後のアパルトヘイト解放の英雄らと共にRivonia裁判で終身刑の判決を受け、Robben島にて18年に及ぶ服役を経た。Rivonia裁判とは、当時のアパルトヘイト政権が制定した白人優遇措置への黒人層の反対運動に対し、反逆罪の容疑で多くの活動家が逮捕・告訴された裁判である。

獄中生活を経て、Mandelaは他の民族の歴史や言語を学び、その後の融和政策へとつながったとされている。また、ここで生まれ、強まった英雄同士のつながりも新政府樹立の大きな足がかりとなった。

全てのニュースや新聞で彼の死を悼んでいた。現与党のANC(アフリカ民族会議)のメンバーも「民主主義にとって貴重な存在を失った。彼の意思を引き継がなければいけない」とコメントしている。

葬儀が執り行われたのが29日。大統領であるJacob Zuma含め数多くの人々が訪れた。

今日31日はこの時期のケープタウンには珍しく雨が降っている。少し遅れた悲しみの雨のようである。しかし、世間の関心は今や別の方向に向いている。今朝のトップニュースは「財務大臣の更迭」についての記事で埋め尽くされていた。31日未明、Jacob Zuma大統領が財務大臣であるPravin Gordhanを更迭したというのだ。南アフリカ共和国では日本と同じく憲法によって大統領(首相)の権限が規定されており、大臣の罷免権を一手に有している。任命も大統領によって行われるため、今回の更迭には世間と野党から反発の声が強い。世間からは「なぜGordhanが?」という驚きの声であり、野党からは任命責任を追及する声だ。Gordhanは汚職の悪しき評判があるZuma大統領に比べ、世間からの信頼が厚い。昨年の学費増額騒動では徹底的に歳出項目を洗い出し、予算のスリム化を実現し、2017年度予算についても社会保障費を始めとして世間のニーズに強く答える形で改革を断行した。2月の予算演説では国会がスタンディングオベーションで称賛し、端的に言って高評価の政治家だったのだ。しかし、なぜここにきて更迭されたのか。その謎はまだ明らかになっていないが、メディアの論調としては大統領の身辺整理・次の選挙に向けた対策・政策の強行など独裁的な傾向を批判するものが多い。特に、諜報機関による情報報告からGordhanが副大臣と共に財界からの政府転覆を図っているのでは、との疑惑がZuma大統領の脳裏にあるらしい。財務省というのは日本でも同じで、国家の運営を左右する予算を握っている以上、他の省庁に比べ明らかに存在感が大きな省だ。Zumaは今後の政策実行に関してGordhanの方針を快く思っていなかったとの指摘が多い。もし今の日本で安部総理が麻生財務大臣をいきなり更迭したとすれば大きな衝撃となるだろう。南アフリカ共和国の通貨価値はこのニュースが報じられてから5%の下落を見せた。国会前では反対運動も行われており、世間の関心も非常に高い。副大統領であるRamaphosaは今回の件に関して「到底容認できない」とコメントしており、また事前の相談もなかったという。対野党だけでなく、与党であるANC内での争いも否定できない。

建国の英雄たちが時代の流れで退出していく中で、新たな政治の方向はどこに向かうのか。明日からは4月。新年度だ。なぜ今なのか。更迭後の反応は予期できなかったのかなど疑問は尽きないが、この国にとって一つの大きな節目になるのかもしれない。