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雑記

解決の道しるべ

07/05, 143日目

今の教育NPOでのインターンが始まってもう二か月が経ちそうだ。

FunDzaというこのNPOはReading Changes Livesをモットーに南アフリカ共和国全体で幅広く識字教育と、物語を読む・書く楽しさを伝えている。

南アフリカ共和国の15歳以上の識字率は全国調査で約90%ではあるが、これはタウンシップといったスラム街の人口を正確に反映したものではない。また、地域・部族といったカテゴリ別にみると白人層の教育水準の高さと、そこに潜む格差に気付く。

FunDzaが提供しているのはオンライン上での学習コースや物語の投稿機能などで、電子書籍化された物語を読むこともできる。利用者は月間アクティブで50万人を超えており、この国の人口に照らすとかなりのものである。もちろん、すべて無料だ。

今自分が取り組んでいるのは、このオンラインコンテンツをオフラインでも利用可能にすることだ。南アフリカに限らずアフリカ大陸では携帯電話のデータ通信料が高額なことが多い。Wi-Fiも日本よりは普及していると思うが、それでもデータに等しくアクセスできる権利が全ての地域に保証されている訳ではない。

どのようにオフライン化を可能にするかというと、Raspberry Piを用いる。これは、いわば小型のコンピューターで、こんなに小さくてもLinuxマシンとしてGUIでの使用も可能である。今回、この目的のために日本から持ってきたわけではなかったが、現在の上司とのディスカッションの中でこれを利用するアイデアが誕生した。

このRaspberry PiにFunDzaのコンテンツをあらかじめダウンロードした上で、WEBサーバーとホットスポットとしての役割を持たせる。Raspberry Pi通信圏内のスマートフォンからはインターネットに接続することなくコンテンツを利用することが可能になる訳だ。

自分が出発前に考えていたのはAmazonのKindleのようなハードウェアを、識字教育に特化したものとして開発することだった。しかし、Amazonのような技術を持った大企業でもKindleのハード自体は赤字が前提で生産がされている。自分がそれよりも高水準かつ廉価のものを自己開発するのは到底現実的な話ではなかった。試作品は、数十年前のポケベルといい勝負をするかどうかだろう。

LCD使用のちゃちなハード

しかし、Raspberry Piを用いた方法であれば既に流通しているスマートフォンなどの端末をハードとして利用できる。流通量が多くなれば価格が低下するのは経済の大原則で、今では手ごろな価格でこうしたハードを入手するのが可能な時代だ。もちろん、動画やゲームをしたりする訳では無いので、教育の用途において性能は十分だ。そして、Raspberry Pi1台につき20人が接続できるとしても1台5000円程度なので、コストパフォーマンスも申し分ない。

このアイデアにたどり着いたとき、「なぜこんな簡単な結びつけが出来なかったのだろう!」と、全身に驚きと興奮混じりの衝撃が流れた。ジェームス・W・ヤングの「A Technique for Producing Idea」には「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」とある。しかし、その後に続く「既存の要素を新しい組み合わせに導く才能は、物事の関連性を見つけ出す才能に依存するところが大きい」との言葉に世の中の大発明のエッセンスが詰まっているであろう。

自分の中にあった固定観念は以下の2つだ。
・スマートフォンの再利用にはデータ通信の問題があるし、通信ができない地域でそれを用いるのは不可能だ。(スマートフォン=電波が無いと使えない)
・通信ができないなら組み込み型のスタンドアロン端末を使うしかない。

今の解決策なら、電源と安価な端末があれば学修の環境を整えることが理論上可能である。しかも、実現性も十分だ。E-learningの議論には「何も無理にデジタル機器を利用しなくてもいいのでは」という指摘があるが、この情報化時代に単なるリテラシーだけでなくデジタルリテラシーも育むことができるe-learningは、格差と貧困の固定化を打破する上で必ず大きな役割を果たすと信じている。電源問題も、ソーラー発電を用いたソーシャルビジネスがアフリカで次々と誕生している。電気のない地域で携帯電話を使うことができる時代である。キーワードは「安価に」「誰もが」システムの恩恵を享受できること。自分はこの動きを加速させていきたい。